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遺産分割と法定果実

 遺産分割の対象財産に収益物件がある場合、遺産分割が完了するまでに法定果実(賃料)が発生し続けることになります。

 この法定果実は誰に帰属するか、遺産分割の場面で問題となります。

 

1 問題の所在

 法廷果実は誰に帰属するのでしょうか。

 民法第909条は「遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。」と規定していることからすると、遺産分割によって収益物件を取得した者が、全ての法定果実を取得する結果になるのではないか、とも考えられます。

 

2 最高裁判例

 前記問題点について最高裁第一小法廷は、平成16年(受)第1222号の平成17年9月8日判決(最高裁判所民事判例集59巻7号1931頁)において、次のとおり判示しました。

 「遺産は、相続人が数人あるときは、相続開始から遺産分割までの間、共同相続人の共有に属するものであるから、この間に遺産である賃貸不動産を使用管理した結果生ずる金銭債権たる賃料債権は、遺産とは別個の財産というべきであって、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するものと解するのが相当である。遺産分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずるものであるが、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得した上記賃料債権の帰属は、後にされた遺産分割の影響を受けないものというべきである。」

 「したがって、相続開始から本件遺産分割決定が確定するまでの間に本件各不動産から生じた賃料債権は、被上告人及び上告人らがその相続分に応じて分割単独債権として取得したものであり、本件口座の残金は、これを前提として清算されるべきである。」

 

3 結論

 分割債権として発生すると同時に、各相続人に相続分に応じて帰属するというのが最高裁の判断です。最高裁の判断が出た以上、現況この考え方にしたがって、法定果実の分割に対応していくことになります。

 

4 実務的な問題点

 法定果実は分割債権といっても賃借人からすると、いちいち分割して各債権者に割り付けて支払うなどという煩雑なことを求められるのはたまったものではありません。そのため、賃料は多くの場合、相続人が合意で定めた口座に支払われることになります。後はこれを相続人でどう分けるか考える訳ですが、その法定果実の分割方法から揉めてしまっても困るので、多くの場合法定果実は口座に貯めておいて、遺産分割の場でそのの帰属も同時に話し合うことになります。

 法的には、分割債権なのだから遺産分割の話合いをする必要はありません。しかし、上記のような実態上の問題点から「特に遺産分割において同時に話合いで解決する」ことを当事者が合意の上、遺産分割の場面で分割協議をしている、というのが実態となっています(判例変更・民法改正前の預金債権の帰属の議論をイメージしていただけると分かり易いと考えます)。

 法定果実は遺産分割段階で結構な金額となっていることも多いため、公平な遺産分割の調整弁なることもあります。そのため、個人的には、遺産分割の解決のためにも他の債権と同時に話合いで帰趨を考えると良いのかな、という印象を持っています。