さて今日は解答編です。
ここで問題のおさらいを致します(ちなみに若干表現に変更があります)。
Aは多数の人間に対し、自己の資金で、年利15%で金銭の貸付をしていた。そのためAは周囲の人間から「金貸し」と見られていた。
AはBに対し、8年前、金銭を貸し付けていたことを思い出し、Bに対して元本と利息を支払うよう請求したところ、Bは時効を援用するとの意思表示をした。
1:Aの請求は認められるか?
2:Aが個人で古物商を営んでいた場合はどうか。なお、Aの古物商店は、金銭を借り入れる人間が、ついでに買い物をするため、繁盛しているものとする。
3:Bが飲食店を営んでいる場合はどうか。立証を意識して場合を分けて論ぜよ。
まずは小問1について。
昨日記載しましたが、「自己の資金で金銭を貸し付ける行為」が商行為にあたるかが問題の所在であり、より具体的には、商法502条8号の「両替その他の銀行取引」に該当するかが問題となります。
この点については判例があります。
「金貸業者であっても、預金その他の方法で収受した金銭を他人の需要に供するような媒介行為をするときでなければ、銀行取引をする商人に該当しない」(大判昭13・2・28)という判例であって、これは現在に至るも変更されていません。
このように判例では「銀行取引」の定義を、「受信行為と与信行為とが関連するもの」をさすとして、単なる自己資金を貸し付ける行為は同号の商行為に該当しないとしているのです。このような判断は、利率を明示していない有償消費貸借契約において、債務者を保護する意図があってなされた、という判例解釈がありますね。
しかもこの考え方は徹底していて「貸金業の届出が受理されたば者がなす場合でも金融行為自体は商行為ではない」(最判昭30・9・27)との判決まであります。
そしてこれらの判決を受け継いで、「金融業者であるというだけでは商人であるとはいえず、その貸付行為を商行為と推定すべき根拠はない」(最判昭44・4・24)という判決が出されています。もっとも会社が自己資金を貸し付ける場合は、商行為とされるでしょうけどね(会社法5条)。
以上のような判例の流れからすれば、本小問1のAの行為は商行為に該当しないとして、民事債権と認定し、請求は認められる、というのが回答となります。
司法試験で本問が出た場合には、無論別の説に立ってもいいのですが、やはり判例の考え方を前提として論じなければ(つまり、判例はこういう説に立っているが・・・として判例の考え方を叩いてから自説を述べる。)高い得点は望めないのではないかなあと思うのです。
それでは、小問2の方はどうでしょうか。
古物商ということを明示して、商人であることを明らかにしています。
そうすると、自己資金を貸し付ける行為は、附属的商行為に該当するのか。
基本的商行為にすら該当しない行為を、商人が行った場合にも附属的商行為と考えてしまって良いのかが問題となります。
この点については明示的にした判例は見つけられませんでした。
ここは、商法503条2項の文言解釈から附属的商行為に該当する、とした方が書きやすいかもしれません。ただこの結論を書くにしても、基本的商行為に該当しない行為が附属的商行為に該当する点について一言、たとえば商法503条の趣旨から述べられると、評価は良いかもしれませんね。
最後の小問3ですが、こちらはBが商人であることを商法502条7号から引っ張り、商法3条1項を引っ張ることが前提となります。
その上で、場合を分ける。
Bが商人である上、金銭を借り入れる行為は附属的商行為に該当すると考えられていますから、Aが商人であろうがなかろうが、Bの借入は商行為と推定されることになります。
すると、Aにおいて、当該借入が、その営業のために(商法503条2項)なされたものではないことを立証しない限り、Aの請求は認められないことになるのです。
したがって解答としては、「Aが、Bの借入は営業のためにしたものではないこと(たとえば自己の生活のため)を立証した場合には、Aの請求は認められ、立証ができなかった場合には、Aの請求は認められない」ということになります。さらに言えば、Bが自分が商人であると立証した場合は、という限定を付けてもいいかもしれません。
小問3はわかりにくかったかもしれませんが、私としては上記解答を期待して、問題を出したつもりでした^^
まあ、小問3の回答は実務的にも問題になるところだと思います^^