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競業避止義務違反と退職

 競業避止義務とは、会社の取締役が・執行役が「自己又は第三者のため、会社の事業の部類に属する取引」を行うには取締役会(非取締役会設置会社の場合は株主総会)の承認を得なければならないという義務を指します(会社法356条)。
 競業が問題となる場面で、取締役会(株主総会)の承認を必要とした法の趣旨は、取締役や執行役は会社の業務執行に関する強い権限を持ち、営業上の機密も周知していることから、競業を自由に認めてしまうと、その地位を利用して会社の取引再起を奪うなどして、会社に損害を与える危険性が存在するために、制限を加える、という点にあるとされています。

 会社法356条等でいう「自己又は第三者のため」の意義については争いがありますが、「自己又は第三者の計算」を指すという計算説が通説とされています。
 計算説にいう「計算」とは、自己の名義であると第三者の名義であると問わず、行為の経済的効果が自己又は第三者に帰属して、会社には帰属しないことを指します。

 さらに「会社の営業の部類に属する取引」についても争いはあります。これはどの程度の範囲を示しているのか。
 この点は、前述の趣旨よりかなり広めに解釈されています。会社の事業の目的である取引よりも広く、それと同種または類似の商品・役務(サービス)を対象とする取引であって、会社が実際に行う事業と市場において競合するものを言います。具体的には、既に廃業した事業も含みますし、将来の開業をみこして準備している事業も含まれるとされています。

 このような競業避止義務は時的にはいつまで負うことになるのか。
 この点については大分前に書いておりますが、原則として退職後までは負わないとされています。
 その理由としては、退職者の職業選択の自由憲法22条1項)の保護があげられます。
 実際のところ、退職者としては、それまでの経験を基にして、新たな道へと進もうと考えるわけですから、そうするとどうしても前会社と競業する会社へ進むことを考えることになるでしょう。これを制限することが果たして正当か、というとやはりその人のその後の人生を考えれば、必ずしも正当とは言えません。
 しかし、一方で会社側から見れば、様々な会社の機密に通じていた旧取締役・旧執行役が、ライバル会社に行ってしまうと、自社の不利益になるおそれがあり、これを避けたいと思うことも珍しくはないでしょう。

 このような場合会社側はどのように対処すればいいのか。
 この点、退職後の競業避止義務を明示した契約を、在職中に結んでおくことが対処の方法となります。もっとも、その競業避止義務契約があまりにも制約が厳しいものである場合には、契約自体が退職者の職業選択の自由を侵害し、公序良俗違反で無効とされる(たとえば余りに長期、広範である場合)こともありますので、契約内容は吟味が必要でしょう。
 では、在職中に競業避止義務契約を締結しなかった場合に、旧取締役が、在職中の機密を利用して、不正な取引をしかけてかつて在職していた会社に損害を与えたような場合も、競業避止義務違反を追及出来ないのでしょうか?
 この点については、不正競争防止法2条1項7号で禁止されているので、同法第3条に基づく差止請求、第4条に基づく損害賠償請求などで対処することができます。

 このように、退職取締役(執行役)の競業避止義務の問題は、退職者の職業選択の自由と、会社側の営業上の利益を天秤にかけて、公平を保つことで実務上解決が図られていると言えます。というか、民事は基本的に公平の観点が一つの大きな物差しになっていますけどね^^;

 さて、ここで一つ問題。たとえば取締役設置会社で、規定人数しか取締役がいないものの、そのうちの一人が会社との軋轢に耐えかねて、退職し、自分で旧会社と競業する会社の取締役に就任した場合はどうでしょうか。なお競業避止義務契約はないものとします。
 ・・・とここからが本題だったけど、ちょっと気力が^^;
 解答についてはまた今度書きます〜。